お金の使い方で幸福度は変わるのか?お金と幸福の研究

同じ金額を使うのでも、使い道によって幸福感が変わるのか。この問いは行動経済学で長く研究されてきましたが、実は「最初の実験ほど効果が強くなかった」と追試でわかったケースもあります。研究の変遷も含めて、今わかっていることを整理します。
3行でわかる
- 2008年の実験では他人のためにお金を使った人の方が幸福でしたが、2022年の追試ではその差は統計的に確認されませんでした。
- 2024年の7カ国・200人の調査では、寄付・ギフト・経験・自己ケア・教育への支出で幸福感が高い傾向がありました。
- 高所得国の参加者は低所得国に比べて、借金返済や住居費への支出で幸福感が低く、ギフトや時短になる購入で幸福感が高い傾向がありました。
01お金の使い方で幸福度は本当に変わるのか?
寄付・ギフト・経験など、幸福感が高くなりやすい使い道の傾向は見られますが、効果の強さについては研究によって結果が分かれています。
「他人のためにお金を使うと幸せになる」という話は広く知られていますが、これは1つの実験結果が独り歩きしている面もあります。行動経済学では、最初の実験が魅力的な結果でも、対象人数を増やして確認し直す「追試」によって結果が弱まったり消えたりすることがあります。ここでは元の実験と追試の両方を紹介します。
02研究では何がわかっているのか?
「他人のために使うと幸せになる」という効果は追試で揺らぎましたが、7カ国の調査では寄付・ギフト・経験・自己ケア・教育への支出で幸福感が高い傾向が見られました。
Dunn, Aknin & Norton(2008)[1]
大学生にお金を渡し、自分のために使うグループと他人のために使うグループに分けたところ、他人のために使ったグループの方がその日の幸福度が高くなりました。
対象: 大学生46人 / 限界: サンプル数が少なく、後の追試で結果の頑健性に疑問が持たれた。
Kim ら(2022、上記研究の追試)[2]
同じ実験デザインを133人で追試したところ、元の分析方法では統計的に意味のある差は確認されませんでした。一方、追加した1項目の幸福度(使った直後どれくらい幸せだったか)を使う探索的な分析では、他人のために使ったグループの方が統計的に有意に幸福でした。研究者は元の実験が対象人数不足だった可能性を指摘しています。
対象: 大学生133人(個人消費67人・向社会的消費66人) / 限界: 効果が完全に否定されたわけではなく、測定方法によって結果が変わる可能性が残る。
Stenlund ら(2024)[3]
7カ国の200人に1万ドルの一時収入を渡し、3,225件の購入ごとの幸福感を調べたところ、寄付・ギフト・経験への支出で幸福感が特に高く、自己ケアや教育への支出でも高い傾向がありました。一方、高所得国の参加者は低所得国の参加者に比べて、借金返済や住居費への支出からは幸福感を得にくく、ギフトや時短になる購入からはより幸福感を得やすい傾向がありました。
対象: 7カ国200人、3,225件の購入データ / 限界: 使い道は本人が選んだもので、因果関係は断定できない。一時的な大金という特殊な状況での結果であり、日常の少額の支出にそのまま当てはまるとは限らない。
03幸福感を意識してお金を使うには何をすればいいのか?
「何に使うと自分の幸福感につながりやすいか」をあらかじめ知っておき、使い道に少し配分するとよいと考えられます。
月の予算の一部を「経験」に配分する
外食・旅行・体験チケットなど、形に残らない支出に少額でも予算を確保する。
所要 5分
小さな寄付や贈り物を試してみる
効果が完全に確立された話ではないと理解した上で、少額から試して自分にとってどうかを確かめる。
所要 5分
時短になる支出を検討する
家事代行やタクシー等、時間を生み出す支出も候補に入れる。7カ国の調査では、特に高所得国の参加者で時短の購入の幸福感が高めでした。
所要 10分
04この対策を続けるコツは何か?
1つの研究結果を鵜呑みにせず、自分に合うかどうかを小さく試しながら確かめるのがよい向き合い方です。
- 「他人のために使えば必ず幸せになる」と決めつけず、自分の生活や性格に合った使い道を少しずつ試して、続けるかどうかを判断すると無理がありません。
05よくある質問
他人のためにお金を使うと幸せになりますか?
2008年の元の実験(N=46)では他人のために使ったグループの方が幸福でしたが、2022年の追試(N=133)では同じ分析方法だと統計的に有意な差は確認されませんでした。一方、探索的な1項目の幸福度では他人のために使ったグループの方が有意に幸福でした。研究者は元の実験の対象人数が少なすぎた可能性を指摘しています。効果はあっても、当初考えられていたほど確かなものではないかもしれません。
何にお金を使うと幸福度が上がりやすいですか?
Stenlund氏らの2024年の研究(7カ国200人、1万ドルの一時収入、3,225件の購入を調査)では、寄付・ギフト・経験への支出で幸福感が特に高く、自己ケアや教育への支出でも高い傾向がありました。使い道は本人が選んだもので、因果関係までは言えないと研究者は述べています。
高所得の国と低所得の国で幸福を感じる使い道は違いますか?
はい。Stenlund氏らの研究では、高所得国の参加者は低所得国の参加者に比べて、ギフトや時短になる購入からより幸福を得やすく、借金の返済や住居費への支出からは幸福を得にくい傾向がありました。生活の余裕によって、お金の使い道と幸福の結びつき方が変わると考えられます。
研究の追試で結果が変わることはよくあるのですか?
珍しいことではありません。心理学の分野では、最初の研究の対象人数が少ないと偶然の差を効果と誤認しやすく、追試でより大きな対象人数で確認すると差が消えることがあります。1つの研究結果だけで断定せず、複数の研究を見ることが大切です。
出典
- Dunn, E. W., Aknin, L. B., & Norton, M. I. (2008). Spending Money on Others Promotes Happiness. Science, 319(5870), 1687-1688.(原実験。詳細はKim et al. 2022の追試論文内で確認) https://doi.org/10.1126/science.1150952
- Kim, G., Adams, I., Diaw, M., Celly, M., Nelson, L. D., & Jung, M. H. (2022). Prosocial spending encourages happiness: A replication of the only experiment reported in Dunn, Aknin, and Norton (2008). PLOS ONE, 17(9), e0272434. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9451075/
- Stenlund, S., Guo, Y., Rights, J., Dwyer, R., & Dunn, E. (2024). How spending decisions shape happiness in everyday life. Communications Psychology, 2, 124. https://doi.org/10.1038/s44271-024-00166-6


