固定費の見直しがなぜ後回しになるのか。現状維持バイアスの研究

「そのうち見直そう」と思ったサブスクが、気づけば1年以上そのままになっている。これは怠けているからではない。「今のままにしておく」という選択肢が、他の選択肢より心理的に選ばれやすいという、人間の判断の仕組みが関わっている。
3行でわかる
- 選択肢が「今のまま」として提示されると、それだけで選ばれやすくなることが実験で確認されている。
- カードが新しくなり、続けるには改めて手続きが必要になる月は、サブスクの解約率が大きく上がることが実データで示されている。
- こうした「やめにくさ」が、事業者の収益を平均でおよそ2倍にしているという試算もある。
01「今のまま」がなぜ選ばれやすいのか
選択肢を「現状維持」として提示するだけで、他の選択肢より選ばれやすくなることが実験で示されている。
1988年に発表された古典的な実験では、まったく同じ選択肢の組み合わせでも、そのうちの一つを「これまで通り」として提示すると、中立的に提示した場合より選ばれる割合が高くなることが確認された。健康保険や退職金制度の選択といった、実生活での重要な意思決定でもこの傾向は強く現れている。サブスクの「特に何もしなければ自動継続」という設計は、まさにこの現状維持バイアスが働きやすい状況を作り出している。
02研究では何がわかっているのか?
「今のまま」は選ばれやすく、何もしなければ続く仕組みでは、使っていないサブスクも見直されにくいことが研究で示されている。
Samuelson & Zeckhauser(1988)[1]
同じ選択肢の組み合わせを「現状維持あり」として提示した場合と、中立的に提示した場合を比較する一連の実験を実施。現状維持として提示された選択肢は、そうでない場合より高い割合で選ばれた。大学教員の保険・退職金制度の選択に関する実データでも、同様の強い現状維持傾向が確認された。
対象: 実験参加者、および大学教員の福利厚生選択に関する実データ / 限界: 1980年代の研究であり、現在のサブスク的な自動継続の仕組みそのものを対象にしたものではない。
Einav, Klopack & Mahoney(2025)[2]
大手カード会社の決済データで10のサブスクの解約を分析したところ、有効期限切れなどでカードが新しくなり、続けるには改めて手続きが必要になる月に、解約率がふだんより大きく上がった。研究者はこれを、利用者が見直しをしていない(不注意)しるしと解釈した。モデルを使った試算では、こうした解約のしにくさ(不注意や手間)が、事業者の収益を平均でおよそ2倍にしていた。
対象: 大手カード会社の決済データにある10のサブスクの契約・解約 / 限界: 収益への影響はモデルによる試算で、サービスによって大きく異なる。対象の10サービス以外にそのまま当てはまるとは限らない。
03今日からできる小さな一歩
「見直すタイミング」を自分の意志に頼らず、あらかじめ仕組みとして用意しておく。
今契約しているサブスクを一覧に書き出す
クレジットカードの明細を見ながら、金額・サービス名だけをメモ帳に書き出す。
所要 5分
「今月1回も使っていないもの」に印をつける
一覧を眺めて、直近1か月で一度も使っていないサービスに印をつけるだけでよい。
所要 3分
印がついたものだけ、その場で解約手続きを始める
「あとで検討する」を挟まず、印がついた分だけその場で解約ページを開く。
所要 5分
04続けるためのコツ
見直しを「特別な作業」にせず、カード更新月など決まったタイミングに固定してしまうと続けやすい。
- クレジットカードの更新月に解約率が上がるという研究結果を逆手に取り、自分でも「カードの有効期限が近づいたら固定費一覧を見直す」というルールを決めておくと、能動的な判断のタイミングを自分から作り出せる。
05よくある質問
現状維持バイアスとは何ですか?
Samuelson & Zeckhauser(1988)が実験で示した、選択肢が「今のまま」として提示されると、それ以外の選択肢より選ばれやすくなる心理的な傾向です。健康保険や退職金制度の選択など、実際の重要な意思決定でも強く働くことが確認されています。
サブスクの解約率はどんなときに上がりますか?
カード決済のデータを使った研究では、有効期限切れなどでカードが新しくなり、続けるには改めて手続きが必要になる月に、解約率が大きく上がることが確認されています。研究者は、普段は何もしなければ自動で続くため、見直さないまま払い続けている人がいると解釈しています。
出典
- Samuelson, W., & Zeckhauser, R. (1988). Status Quo Bias in Decision Making. Journal of Risk and Uncertainty, 1(1), 7–59. https://doi.org/10.1007/BF00055564
- Einav, L., Klopack, B., & Mahoney, N. (2025). Selling Subscriptions. American Economic Review, 115(5), 1650–1671. https://doi.org/10.1257/aer.20231612


