貯金アプリより「先取り貯金」が続くのはなぜ?自動化の研究

貯金しようと決めても、給料が入ると結局使い切ってしまう。これは意志の弱さだけの問題ではなく、「お金を見てから貯金するかどうかを判断する」やり方にも原因があると考えられています。給料から自動で天引きする「先取り貯金」の仕組みが続きやすいことは、行動経済学の研究でも示されています。
3行でわかる
- 昇給のたびに自動で貯蓄率が上がる仕組みにした米国企業のプログラムでは、参加者の平均貯蓄率が40か月で3.5%から13.6%まで上がり、約80%が4回目の昇給まで続けていました。
- すぐに貯蓄率を上げる提案を受け入れた人は28%でしたが、「次の昇給から上げる」方式には78%が参加しました。
- ケニアの実験では、利息の付かない口座を持てるようにしただけで、市場で働く女性たちの貯蓄や事業への投資が増えました。
01なぜ「先取り貯金」の方が続くのか?
貯金が続くかどうかは、意志の強さよりも「お金を見る前に減らす」仕組みがあるかどうかに左右されやすいと考えられています。
給料を受け取ってから貯金しようとすると、その都度「今回はやめておこう」という判断の機会が生まれ、目の前の欲しいものへの誘惑に負けやすくなります。最初から天引きされていれば、その判断自体が発生しないため、意志力を使わずに続けやすくなります。行動経済学では、人が初期設定のまま過ごしやすいことを「デフォルト(初期設定)の力」と呼びます。
02研究では何がわかっているのか?
自動で加入・天引きされる仕組みでは、多くの人がそのまま貯蓄を続けることが、米国の企業年金の研究で確認されています。
Thaler & Benartzi(2004)[1]
「Save More Tomorrow」というプログラムでは、昇給が起きるたびに貯蓄率が自動で上がる仕組みを導入しました。専門家に「今すぐ貯蓄率を上げる」よう勧められて受け入れた人は28%でしたが、断った人にこの方式を提案すると78%が参加しました。参加者の平均貯蓄率は40か月で3.5%から13.6%まで上がり、約80%が4回目の昇給まで制度に残っていました。
対象: 米国の中規模製造業1社の従業員(1998年に最初に導入。上の数値はこの導入例) / 限界: 参加は本人が選んだもので、無作為に割り付けた実験ではない。給与天引きのある企業年金(401(k))の制度で、フリーランス等には直接当てはめにくい。
Madrian & Shea(2001)[2]
米国の大企業が、企業年金(401(k))を「希望者だけ加入」から「断らない限り自動で加入」に切り替えたところ、加入率が大きく上がりました。自動加入で入った人の多くは、初期設定の拠出率と運用先をそのまま使い続けていました。
対象: 米国の大企業1社の従業員(切り替え前後に入社した人の比較) / 限界: 無作為化実験ではなく、1社の制度変更の前後比較。初期設定のままでいることが、必ずしも本人に最適とは限らない。
Dupas & Robinson(2013)[3]
利息が付かず、引き出しに手数料がかかる銀行口座を無作為に選んだ人に開設したところ、ケニア農村部の市場で働く女性たちの多くが口座を使い、より多く貯蓄し、事業への投資や私的な支出を増やしました(自転車タクシー運転手の男性には効果は見られませんでした)。
対象: ケニア農村部の市場の女性商人と自転車タクシー運転手 / 限界: 発展途上国の現金経済という特殊な文脈での結果であり、先進国での送金・貯金インフラが整った環境にそのまま当てはまるとは限らない。
03先取り貯金を始めるには何をすればいいのか?
最初に自動振替を設定し、金額を増やすタイミングも先に決めておくと、毎回判断せずに済みます。
給料日の翌日に自動振替を設定する
給与振込口座から貯金用口座へ、決まった金額を自動で送金するよう銀行アプリで設定する。
所要 5分
昇給・ボーナスの一部を先に配分するルールを決める
Save More Tomorrow方式にならい、「昇給分の半分は自動で貯蓄に回す」等、あらかじめ決めておく。
所要 10分
口座を分けたら、必ず自動送金まで完了させる
口座を分けても、自分で毎回移すやり方だと判断の機会が残る。振替設定の画面まで進んで完了したか確認する。
所要 3分
04この対策を続けるコツは何か?
最初から大きな金額を天引きしようとせず、小さく始めて慣れたら増やすのが続けやすい方法です。
- いきなり大きな金額を天引きしようとすると、ためらいやすくなります。Save More Tomorrowでも、今すぐ貯蓄率を上げる提案を受け入れた人は28%でしたが、昇給時に上げる方式には78%が参加しました。まずは無理のない少額から始め、昇給のタイミングで少しずつ増やすと始めやすくなります。
05よくある質問
先取り貯金はどれくらい効果がありますか?
Thaler & Benartzi(2004)が報告した米国企業のSave More Tomorrowプログラムでは、昇給のたびに自動で貯蓄率が上がる仕組みにしたところ、参加者の平均貯蓄率が40か月で3.5%から13.6%まで上がり、約80%が4回目の昇給まで続けていました。ただし参加は本人の選択で、無作為化実験ではありません。
利息の付かない口座でも貯金の効果はありますか?
効果が見られた研究があります。Dupas & Robinson(2013)によるケニア農村部の実験では、利息が付かず引き出しに手数料もかかる口座を開設しただけで、市場で働く女性たちの貯蓄や事業への投資、支出が増えました(男性の自転車タクシー運転手では効果なし)。お金を手元から離せること自体に意味があると考えられますが、日本の環境にそのまま当てはまるとは限りません。
なぜ意志力に頼る貯金は続かないのですか?
給料を受け取ってから貯金しようとすると、そのたびに「今回はやめておこう」という判断の機会が生まれ、誘惑に負けやすくなります。最初から天引きされていれば、その判断自体が発生しないため続きやすくなります。
今すぐできる一番簡単な対策は何ですか?
給与振込口座から貯金用口座への自動振替を、給料日の翌日に設定することです。金額は少額から始めて構いません。口座を分けるだけでなく、自動送金の設定まで済ませておくと、毎回判断する手間がなくなります。
出典
- Thaler, R. H., & Benartzi, S. (2004). Save More Tomorrow™: Using Behavioral Economics to Increase Employee Saving. Journal of Political Economy, 112(S1), S164-S187. https://www.journals.uchicago.edu/doi/10.1086/380085
- Madrian, B. C., & Shea, D. F. (2001). The Power of Suggestion: Inertia in 401(k) Participation and Savings Behavior. The Quarterly Journal of Economics, 116(4), 1149-1187. https://doi.org/10.1162/003355301753265543
- Dupas, P., & Robinson, J. (2013). Savings Constraints and Microenterprise Development: Evidence from a Field Experiment in Kenya. American Economic Journal: Applied Economics, 5(1), 163-192. https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/app.5.1.163


