お金の不安は書き出すと軽くなる?表現的ライティングの研究

お金のことを考えると頭がぐるぐるして、他のことに集中できなくなる。それは自分が弱いからではなく、お金の心配が頭の中の処理能力を奪ってしまうからだと考えられています。そして、テスト前の不安を紙に書き出すと成績が下がりにくくなったという実験もあります。
3行でわかる
- 所得の低い人が大きな出費を想像しただけで、認知テストの成績が一晩徹夜したときと同じくらい下がった実験があります。
- 不安を書き出すと、不安に取られていた頭の容量が空き、目の前の課題に向かいやすくなると研究者は考えています。
- テスト前に不安を書いた生徒は、書かなかった生徒より成績が良くなったことが実験で確認されています。
01なぜお金の不安が頭から離れないのか?
お金の不安は「頭の中の容量」を占領し、他のことへの集中力や判断力を下げると考えられています。
「お金のことを考えると他が手につかない」のは、気の持ちようの問題ではありません。心理学ではこれを「認知的な負荷(バンド幅)」の問題として説明します。不安なことが頭の中で常時処理され続けている状態は、パソコンで重いアプリを開きっぱなしにしているのと似ていて、他の作業に使える余力そのものが減ってしまうのです。
02研究では何がわかっているのか?
所得の低い人ではお金の心配が認知テストの成績を下げること、テスト前に不安を書き出すと成績が下がりにくくなることが実験で示されています。
Mani, Mullainathan, Shafir & Zhao(2013)[1]
ショッピングモールで、所得の低い参加者に「1,500ドルの車の修理費が必要になったら」という大きな出費を想像させたところ、認知テスト(流動性知能や、衝動を抑える力を測るテスト)の成績が、一晩徹夜したときや13ポイントのIQ低下に匹敵するほど下がりました。出費が「150ドル」という小さい想定のときは、所得による差はほとんど出ませんでした。
対象: ニュージャージー州のショッピングモールの買い物客、およびインドのサトウキビ農家(収穫前後の比較) / 限界: 一時的な不安の誘発実験であり、慢性的な経済的困難の影響を完全に再現しているわけではない。
Ramirez & Beilock(2011)[2]
テスト前の10分間、不安な気持ちを自由に書き出したグループは、書かなかったグループより成績が良くなりました。教室での実験では、不安の強い生徒のうち、書いたグループの平均評価はB+、書かなかったグループはB-でした。実験室条件では、書いたグループの正答率が5%向上したのに対し、書かなかったグループは12%低下しました。
対象: 大学生(実験室実験)とアメリカの高校9年生(日本の中学3年生にあたる学年)の生物の期末試験受験者(教室でのフィールド実験) / 限界: テスト不安を対象にした研究であり、日常的なお金の不安への効果の大きさは別途の検証が必要。
03今日からできる小さな一歩
正解や解決策を考える前に、まず不安をそのまま紙に書き出すことから始めます。
「今、お金について何が不安か」を思いつくまま書く
整理しようとせず、頭に浮かんだことをそのまま箇条書きか文章で書き出す。誰かに見せる必要はない。
所要 5〜10分
「なぜそう感じるか」も一緒に書く
出来事だけでなく、それに対する自分の気持ちも書き添える。つらい体験について書く研究では、このほうが効果的だとされている。
所要 5分
書いたあとに、次に1つだけできることを決める
不安を全部解決しようとせず、「今日できる小さな一歩」を1つだけ選んで終わりにする。
所要 1分
04続けるためのコツ
毎日でなくても構いません。研究で試されたのは、不安が強くなる場面(テストの直前)に1回、10分間書く方法でした。
- 「毎日日記をつける」と決めるとハードルが上がって続きません。不安で頭がいっぱいになったタイミングだけ紙とペン(かメモアプリ)を開く、という使い方のほうが無理なく続けられます。
05よくある質問
お金の不安が頭を占領すると何が起きますか?
Mani, Mullainathan, Shafir & Zhao(2013)の実験では、所得の低い人が大きな出費(1,500ドルの車の修理費)を想像しただけで、認知テストの成績が、一晩徹夜したときや13ポイントのIQ低下に匹敵するほど下がりました。
不安を書き出すと本当に効果がありますか?
テスト不安については効果が確認されています。Ramirez & Beilock(2011)の実験では、テスト前に不安を10分間書き出したテスト不安の強い生徒は平均B+評価、書かなかった生徒は平均B-評価となりました。実験室条件では、書いたグループは正答率が5%向上し、書かなかったグループは12%低下しました。ただし、お金の不安で同じ効果があるかは、まだ確かめられていません。
何を書けばいいかわからない場合はどうすればいいですか?
形式は自由です。Pennebakerらの表現的ライティング研究(大学生がつらい体験について書いた実験)では、出来事だけでなくそれに伴う感情も書くほうが効果的とされています。「今、お金について何が不安か」「なぜそう感じるか」を思いつくまま書くだけで構いません。
書くだけで家計の問題は解決しますか?
書くこと自体が家計を改善するわけではありません。研究で示されたのは、テスト前に不安を書き出すと試験の成績が下がりにくくなったということです。お金の不安でも頭の負担が軽くなる可能性はありますが、家計の具体的な見直しは、書いたあとの次のステップになります。
出典
- Mani, A., Mullainathan, S., Shafir, E., & Zhao, J. (2013). Poverty Impedes Cognitive Function. Science, 341(6149), 976-980. https://www.science.org/doi/10.1126/science.1238041
- Ramirez, G., & Beilock, S. L. (2011). Writing About Testing Worries Boosts Exam Performance in the Classroom. Science, 331(6014), 211-213. https://www.science.org/doi/abs/10.1126/science.1199427
- Pennebaker, J. W., & Beall, S. K. (1986). Confronting a Traumatic Event: Toward an Understanding of Inhibition and Disease. Journal of Abnormal Psychology, 95(3), 274-281. https://doi.org/10.1037/0021-843X.95.3.274


