お金の話を避けてしまうのはなぜか。「ダチョウ効果」の研究

通帳を見るのが怖い。明細を確認するのを後回しにしてしまう。これは意志が弱いからではない。お金が最も心配なタイミングほど、人は情報から目をそらしたくなる「ダチョウ効果」という傾向を持っている。
3行でわかる
- 口座残高がプラスからマイナスに変わると、人は口座を確認する頻度を減らすことが、家計アプリのログイン記録で確認された。
- 手元のお金が多いときや収入が入ったときほどよく確認し、借り越しが増えるほど確認しなくなるという傾向が示された。
- 英国では、深刻な借金の問題を抱える人の75〜83%が助言を求めていないという過去の報告が、研究の中で紹介されている。
01見たくない情報から目をそらす仕組み
残高がマイナスに変わると、人はかえって口座を確認する頻度を下げる。
アイスランドで広く使われている家計管理アプリのログイン記録を分析した研究では、口座残高がプラスからマイナスに変わると、利用者が口座を確認する頻度が下がることが確認された。借り越しが増えるほど、確認はさらに減る。逆に、収入が入ったときや手元のお金に余裕があるときは、確認の頻度が上がる。残高が心配なときこそ確認したほうが対策を取りやすいが、実際の行動はその逆になりやすい。この「都合の悪い情報を避ける」傾向は「ダチョウ効果」と呼ばれている。
02研究では何がわかっているのか?
お金の状況が悪いときほど、人はその情報を避けやすい。避けることの損を考えると、避ける人が減るという実験もある。
Olafsson & Pagel(2025)[1]
アイスランドの家計管理アプリ「Meniga」の利用者のログイン記録と口座データを分析。口座残高がプラスからマイナスに変わると確認の頻度が下がり、借り越しの額が増えるほどさらに下がることを確認した。一方、手元のお金が多いときや収入が入ったときは、確認の頻度が上がった。
対象: アイスランドの家計管理アプリ利用者のログイン記録と口座データ(Review of Economics and Statistics掲載) / 限界: 特定の国・特定のアプリ利用者のデータであり、他の文化圏にそのまま当てはまるとは限らない。
Harkin(2017)[2]
英国の3つの実験。借金のリスクを見るかどうかを選ばせる課題で、「避けることの損」と「見ることの利点」を考えさせる質問紙や短い動画を使うと、リスクを見ない人が減った。序論では、深刻な借金の問題を抱える人の75〜83%が対処法の助言を求めていないという英国の過去の報告や、お金を避ける人ほど毎月の支出や口座残高を知らないという先行研究を紹介している。
対象: 英国の大学の学生・職員(40人と342人)、信用組合で借入を申し込んだ人(81人) / 限界: 75〜83%は著者が引用した過去の調査(Hatcher, 1994など)の数字で、この研究で測ったものではない。効果が長く続くかは調べていない。
Karlsson, Loewenstein & Seppi(2009)[3]
「ダチョウ効果」という言葉を広めた研究。北欧(スウェーデン)と米国の投資家の口座確認の記録を調べ、どちらでも、株式市場が上がっているときは、横ばいや下がっているときよりも口座をよく確認していた。
対象: スウェーデンと米国の投資家の口座確認の記録 / 限界: 投資口座の研究で、預金口座や家計の確認とは場面が違う。日本にそのまま当てはまるとは限らない。
03今日からできる小さな一歩
「確認するかどうか」を毎回自分の意志で決めず、確認せざるを得ない仕組みを先に作る。
口座残高を確認する時間を先に予定に入れる
「見たくなったら見る」ではなく、毎週決まった曜日・時間に確認する予定をカレンダーに入れる。
所要 1分
残高通知をアプリで自動化する
一定額を下回ったら通知が届く設定にし、自分から見に行かなくても情報が届くようにする。
所要 5分
悪い数字を見ても「対策を決める場」と切り分ける
数字を確認する日と、対策を考える日をあえて分けておくと、確認そのものの負担を軽くしやすい。
所要 継続的に意識
04続けるためのコツ
確認を「反省会」にしない。事実を見るだけの日と、対策を考える日を分けるだけで気が楽になる。
- 残高を確認するたびに自分を責める習慣がついていると、確認自体がつらくなり、避けたくなりやすい。確認は「今の事実を知るだけ」の作業と割り切り、対策を考えるのは別のタイミングにすると、回避のループから抜け出しやすい。
05よくある質問
お金が心配なときほど通帳を見なくなるのはなぜですか?
アイスランドの家計管理アプリのログイン記録を分析した研究では、残高がプラスからマイナスに変わると、口座を確認する頻度が下がることが確認されました。都合の悪い情報を避ける「ダチョウ効果」と呼ばれる傾向で、お金が心配なときほど確認しなくなるという、ちぐはぐな行動が起きやすくなります。
借金の相談をためらう人はどれくらいいますか?
Frontiers in Psychologyに掲載された英国の研究(Harkin, 2017)は、深刻な借金の問題を抱える人の75〜83%が対処法の助言を求めていないという英国の過去の報告を紹介しています。日本の数字ではありません。返済に困っているときは、消費者ホットライン(188)で近くの消費生活センターに相談できます。
出典
- Olafsson, A., & Pagel, M. (2025). The Ostrich in Us: Selective Attention to Personal Finances. The Review of Economics and Statistics. https://doi.org/10.1162/rest_a_01566
- Harkin, B. (2017). Improving Financial Management via Contemplation: Novel Interventions and Findings in Laboratory and Applied Settings. Frontiers in Psychology, 8, 327. https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2017.00327/full
- Karlsson, N., Loewenstein, G., & Seppi, D. (2009). The ostrich effect: Selective attention to information. Journal of Risk and Uncertainty, 38(2), 95-115. https://doi.org/10.1007/s11166-009-9060-6


