衝動買いはなぜ起きる?意志の弱さではない行動経済学の理由

気づいたらレジに向かっていた、カートに入れてしまっていた。衝動買いのあとに「なんで買ったんだろう」と感じるのは、意志が弱いからとは限りません。自制心を使ったあとや、「買い逃すかも」という不安が強いときに衝動買いが増えることが、研究で報告されています。
3行でわかる
- 別の課題で自制心を使ったあとの人ほど、買いたい衝動が強まり、実際に使う金額も増えたという実験があります。ただし「自制心は使うと減る」という効果は、大規模な再現実験ではっきりしていません。
- 品薄だと感じていた人ほど「買い逃す不安(FOMO)」が強く、衝動買いも多い傾向がありました(コロナ禍の中国、マスクなど防護用品の調査)。
- 衝動買いは「突然わき起こる、今すぐ買いたいという強い衝動」として研究されてきました。自分を責めるより、起きやすい場面を知っておくと対処しやすくなります。
01衝動買いはなぜ起きるのか?
衝動買いは「突然わき起こる、今すぐ買いたいという衝動」による買い物で、自制心を使ったあとに起きやすくなったという実験があります。
Rook(1987)[1]は、衝動買いのもとになる衝動を「突然わき起こり、しばしば強く、なかなか消えない、今すぐ何かを買いたいという衝動」と説明しました。この衝動は心の中に葛藤を生むこともあると述べています。買い物中に「欲しい」という気持ちが先に立ち、よく考える前に財布を開いてしまう。それが衝動買いです。
02研究では何がわかっているのか?
自制心を使ったあとの状態と、「見逃すかもしれない」という不安の2つが、衝動買いと結びつくと報告されています。ただし自制心の消耗は、再現実験で効果がはっきりしていません。
Vohs & Faber(2007)[2]
参加者にあらかじめ別の課題(注意をコントロールする課題など)で自制心を使わせてから買い物の場面を用意したところ、自制心を使った参加者ほど「買いたい」という衝動を強く感じ、実際に使ってもよいと答える金額も、実際に使った金額も多くなりました。
対象: 3つの実験 / 限界: 実験室内で人工的に作り出した状況であり、日常の買い物すべてに当てはまるとは限らない。また「自制心は使うと減る(自我消耗)」という効果そのものが、後の大規模な再現実験で確認されていない(下記)。
Zhang, Jiang, Turner & Pahlevan-Sharif(2022)[3]
マスクなど医療用の防護用品が「品薄だ」と強く感じていた人ほど、衝動買いをしたと答える傾向がありました(β=0.233)。品薄感は「見逃すかもしれない」という不安(FOMO)の強さとも結びつき(β=0.488)、この不安を通じた結びつきも統計的に有意でした(β=0.095)。また「他の人が買うものを選ぶ」傾向が強い人ほど、品薄感と衝動買いの結びつきが強くなっていました。
対象: 中国の消費者488人へのオンライン調査(便宜的な標本、2020年1〜3月実施) / 限界: 新型コロナ流行初期の医療用防護用品について1回だけ尋ねた調査で、原因と結果の関係は確かめられていない。店頭の「残りわずか」表示の効果を直接調べたものではない。
自我消耗の大規模な再現実験(2016年・2021年)[4][5]
「自制心を使うと、次の課題で自制が弱まる」という効果を、23の研究室(計2,141人)と36の研究室(計3,531人)で確かめ直したところ、効果はごく小さく、偶然と区別できませんでした(d=0.04、d=0.06)。2021年の研究では、疲れを強く感じていた人ほど効果が大きい可能性が探索的に示されました。
対象: 複数の国の研究室による事前登録された実験 / 限界: 買い物そのものではなく、別の自制課題で調べた結果。衝動買いへの影響を直接確かめたものではない。
03今日からできる小さな一歩
衝動を我慢する力に頼るのではなく、衝動が起きにくい・行動に移しにくい仕組みを先に作っておくのがおすすめです。
「残りわずか」表示を見たら、まず深呼吸をひとつ
品薄・今だけの表示を見た瞬間は、判断を急かされているサインだと考え、一拍置いてから決める。
所要 10秒
買い物前は空腹・疲労・イライラを避ける
お腹が空いている、疲れている、イライラしているときの買い物はなるべく避け、別のタイミングに回す(自制心を使ったあとに衝動買いが増えたという実験もある)。
所要 0分(予定をずらすだけ)
カートに入れたら一晩置いてから決済する
オンラインショッピングでは「今すぐ購入」せず、カートに入れたまま一度離れ、翌日改めて必要かを考える。
所要 1分(設定するだけ)
04続けるためのコツ
衝動買いをゼロにしようとせず、「起きやすい場面」を先に知っておくだけで対処しやすくなります。
- すべての衝動買いをなくす必要はありません。自分がどんなとき(疲れているとき、セール表示を見たときなど)に衝動が強まるかを振り返り、そのパターンにだけ対策を絞ると、無理なく続けられます。
05よくある質問
衝動買いは意志が弱いから起きるのですか?
そうとは限りません。Vohs & Faber(2007)の実験では、別の課題で自制心を使った参加者ほど、後の買い物で強い衝動を感じ、実際に多くお金を使いました。ただし「自制心は使うと減る」という効果は、その後の大規模な再現実験では、ごく小さいか確認されませんでした。
「今だけ・残りわずか」という表示にはどんな効果がありますか?
Zhang et al.(2022)の調査(コロナ禍の中国、マスクなど防護用品)では、品薄だと感じていた人ほど「見逃すかもしれない不安(FOMO)」が強く、衝動買いも多い傾向がありました。「他の人が買うものを選ぶ」傾向が強い人ほど、この結びつきは強まりました。店の「残りわずか」表示そのものを調べた研究ではありません。
衝動買いは悪いことなのですか?
Rook(1987)は、衝動買いのもとになる衝動を「突然わき起こる、今すぐ買いたいという強い衝動」と説明し、心の中に葛藤を生むこともあると述べています。すべての衝動買いを否定する必要はなく、家計に響く頻度や金額になっているかどうかが大切です。
疲れているときに買い物をすると衝動買いしやすいですか?
その可能性を示す実験はありますが、結論は出ていません。Vohs & Faber(2007)では自制心を使ったあとに衝動買いが増えましたが、大規模な再現実験では効果がはっきりしませんでした。2021年の再現実験では、疲れを強く感じていた人ほど効果が大きい可能性が探索的に示されています。
出典
- Rook, D. W. (1987). The Buying Impulse. Journal of Consumer Research, 14(2), 189-199. https://doi.org/10.1086/209105
- Vohs, K. D., & Faber, R. J. (2007). Spent Resources: Self-Regulatory Resource Availability Affects Impulse Buying. Journal of Consumer Research, 33(4), 537-547. https://doi.org/10.1086/510228
- Zhang, J., Jiang, N., Turner, J. J., & Pahlevan-Sharif, S. (2022). The Impact of Scarcity on Consumers' Impulse Buying Based on the S-O-R Theory. Frontiers in Psychology, 13, 792419. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9231522/
- Hagger, M. S., Chatzisarantis, N. L. D., et al. (2016). A Multilab Preregistered Replication of the Ego-Depletion Effect. Perspectives on Psychological Science, 11(4), 546-573. https://doi.org/10.1177/1745691616652873
- Vohs, K. D., Schmeichel, B. J., et al. (2021). A Multisite Preregistered Paradigmatic Test of the Ego-Depletion Effect. Psychological Science, 32(10), 1566-1581. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12422598/


